入居企業インタビュー#22 株式会社tayo 熊谷 洋平さん
株式会社tayo
代表取締役 熊谷 洋平
東京大学の大気海洋研究所で博士号を取得。IT企業で機械学習エンジニアとして働いた後、「アカデミア人材に対する民間企業への就職情報や経路の少なさ」の課題を解決するためにtayoを起業。
Q1. 主な事業内容について教えてください。
研究者のプロフィールを公開し、企業とのマッチングを図るプラットフォーム「tayo」を提供しています。これは研究者向けのビジネスSNSという言い方をしており、現在、約1600人の研究者がこのサービスを利用しています。
Q2. 事業を始めるきっかけを教えてください。
研究者、企業のエンジニアと経験する中で、研究者のキャリアにおける「情報の非対称性」に課題を感じ、それを解消するために起業しました。
研究者は自分の専門分野に偏りがちで、民間でのスキル活用に気づかないことが多いです。例えば、フィールドワークの経験があっても、そのスキルが民間で価値があるとは思われていないことがあります。データ解析やプログラミングのスキルを持っていても、専門外の分野に転職するのはもったいないと感じる方もいらっしゃいます。
大学教員に憧れる人は減少しており、企業の研究開発職を目指す人が増えていますが、アカデミックに近い研究を行える企業は限られているのが現実です。民間では研究開発に求められることが異なり、興味や専門性を活かしつつも現実的な制約があることを理解している方が多いです。
しかし、研究者が持つスキルを適切に評価できれば、民間企業で活かすことができます。例えば、脳神経科学の研究者が、研究で培ったAI解析スキル等を活かしてAIコンサルの仕事に就くこともできるのです。
弊社のサービスでは、「研究者が持つスキル」から「社会に求められるスキル」を抽出し、評価したりすることで「研究者×企業」のマッチングを支援しています。
Q3. OICに入居したきっかけと活用方法を教えてください。
福島イノベーションコースト構想の中で、福島がテクノロジー分野の起業に非常に適した自治体であると考えています。
産学連携は多くの分野で推進されていますが、分野によってはベンチャー企業が立ち上がるのが難しいことがあります。特に機械系などの分野では、ベンチャーキャピタルからの資金だけでは難しい場合が多いです。そのため、自治体や政府系の支援が重要となり、福島イノベーションコースト構想がその良い例となっています。
また、このような支援を通じて、起業を目指す大学院生や研究者に新しい選択肢を提供することは私のしたかったことの一つでもありました。そのようなときに、たまたまOICのアクセラレーションプログラム(「大熊インキュベーションセンタークリーンテックチャレンジ」通称:OICCC)運営のお話を頂き、現在入居もしつつ、スタッフも務めております。
また、福島との個人的な繋がりもあり、父親が福島原発の環境調査に関わっていたり、いとこがアルパイン株式会社で技術者としていわき市で働いていたりすることから、福島に対する親近感を持っていたことも参画を後押ししました。
現在は毎年OICCCの運営を企画設計〜参加者募集〜メンタリング、最終発表まで行うのがOICでの活動内容で、これまでにプログラムに参加してくれた研究者、民間事業者、大学生などから、3社が起業しOICに入居して事業を開始する準備をしてくれています。
Q4. 普段はどのような生活をしていますか。
ほとんど家にいます。(笑)
うちの会社はフルリモートで、5人くらいの小さなチームです。大半が大阪にいますが、私は基本的に社員とは飲みに行かないようにしています。仕事のほとんどはオンラインで、シェアオフィスの個室を借りて作業しています。
趣味はボードゲームですが、コロナでオンラインで済ませることが多くなり、リアルで友達と会うことが少なくなっています。釣りも好きで、友達と釣りに行くこともありますが、ずっと仕事をしている感じです。家族は、2匹の猫と妻と一緒に暮らしています。
変わった過ごし方でいうと、大学時代の友達にサブカル解説YouTuberでチャンネル登録10万人ぐらいのチャンネルを持つ人がいるのですが、その人に協力したりもしています。
Q5. おすすめしたい○○を教えてください。
「ボーはおそれている」という映画です。
「ミッドサマー」の監督と「ジョーカー」の主演俳優がタッグを組んだ映画で、一言で言うと3時間ずっと最悪なことが起こり続けるブラックコメディです。主人公がひたすら不幸な目に遭う内容ですが、不思議と面白いです。人を選ぶ映画ですが、私はすごく気に入りました。
Q6. 今チャレンジしたいことはなんですか?
今、私が挑戦したいのは、会社として論文を発表することです。具体的には、自社で開発中の「メタサイエンス」という研究者の評価スコアシステムに関する論文を来年に投稿しようと考えています。
このシステムは、研究者が特定の分野において日本で何番目に評価が高いかを瞬時に表示するものです。こういったメタサイエンスや、サイエンスforサイエンスの分野で、海外の学術誌に論文を発表することを目指しています。
私の会社は、理系バックグラウンドを持つスタッフが多く、技術に基づいたマッチングを得意としています。一般的な人材会社とは異なり、営業部隊がいないのが特徴です。自社の強みを活かして、他社との差別化を図るために、エビデンスに基づいた経営を進めるつもりです。
Q7. 関心のある分野を教えてください。
研究の社会実装に関心があります。特に、アグリテックや1次産業関連の研究成果をどう社会に還元するかに興味を持っています。
例えば、1次産業系のシーズを自治体との連携でどう自走可能なビジネスにしていくか、というのはとても興味が強いです。また、国策としての博士の育成と企業との連携も注視しています。
Q7. あなたにとっての大熊町とは
本当の意味での0→1がある町なのではと思っています。
私は、いわゆる「何にも無い」(と見える側面がある)ことはやはり特殊だと思っていて、様々なしがらみがないところで事業を始められる場所は日本でも他にないと思います。
大熊町はそういった意味で、とても魅力的な場所だと思います。
◆編集担当より
いかがでしたか。
研究者のキャリア支援といえば、専門性に偏りがちですが、tayoはそのスキルを民間でどう活かせるかを明確に示している点が印象的でした。
また、今年も熊谷さんがOICで運営するプログラム「OICCC」の取り組みが始まっています。どのような企業が誕生するのか、ぜひお楽しみに。