入居企業インタビュー#15 in the Rye株式会社 沖野 昇平さん
in the Rye株式会社
沖野 昇平さん
1993年、神奈川県生まれ。公認心理師(心理カウンセラー)。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(心理学)で、大学院在学中に起業。2023年に大熊町に移住し、学び舎 ゆめの森で子供向けにコミュニケーション能力を育む授業を実施中。
Q1. 主な事業内容について教えてください。
私たち in the Ryeは、『ミーツ・ザ・ワールド』というオンライン教育プログラムを幼稚園や保育園など幼児施設向けに実施しています。このプログラムでは、「1か月に1国ずつ外国人の友達を作る」という体験をすることで異文化を知って育ちあう多様性教育を行っています。
Q2. この事業を始めた理由はなんでしょうか?
大学院時代の研究で体験したことがきっかけとなっています。
実は、私は元々インターネット依存の子どものケアを専門とする心理士として働いており、大学院時代も子どものインターネット依存について研究していました。
当初は中学生を対象に研究していたのですが、ある時、教員の方に「わざわざ中学校まで来て研究されていますが、インターネット依存は幼児期から始まっていますよ」と言われまして。最初はまさかそんなことはないだろうと思っていたのですが、幼児を対象に調査を始めて見ると本当にその通りだったんです。
一番衝撃的だった例でいうと、家で毎日6時間もインターネットを見ている5歳ほどの子どもは三角形を書けませんでした。一般的には5歳児でも三角形は書けるのですが、その子どもの場合は三角形を書くときにまず目をとてつもなく近づけ始め、書こうとすると鉛筆と頭が同時に動いてしまいました。できた図形も三角形には見えないものでした。
子どもは縦横の線を書けるようになってから斜めの線を書けるようになるのですが、その子どもは普段スマートフォンやタブレットしか触っていないので、斜めの線を書く経験をしてこなかったというのが大きな要因だと考えられます。
コミュニケーション能力も同じです。インターネット依存の子どもは普段から話す機会が少ないので、人と上手く話せなくなってしまいます。また、家では話せるものの、外では全く話せなくなるような場面緘黙症と呼ばれるものを持つ子どももいます。対人場面が苦手だと、そこから不登校になってしまう例も多くあります。
それを解決し、子どもたちが社会で人と関わりながら生きていくためには、まず「話せた」という成功体験が必要と考え、どうしら子どもが積極的に話せるような環境を作れるか色々と試しました。そこで効果的だったのが、外国人の方が参加するイベントです。そこでは子どもたちが進んでコミュニケーションをとりにいきました。緊張より興味が勝るし、退屈にならずにずっと楽しめている様子が伺えました。
そこで始めたのが「ミーツ・ザ・ワールド」プログラムです。コロナが流行していた時期だったので、オンラインで子どもたちが外国人と話せる形で開始し、子どもたちが相手を知りたいと思い、自由に話すことができ、多様な文化を理解できることを目指しました。
多様性理解というと「宗教を勉強しなきゃ」、「英語が話せないと始まらない」といったイメージもあるかもしれませんが、そうではなくアウトプットから始めるのがこのサービスの特徴です。まずは「会って話すことができた」という成功体験を持つことで、段々自分ももっと言いたい、相手の話を聞いてみたいと、子どもたちが変化していきます。
特徴的なのが、通訳を入れるということ。このサービスは外国の方と友達になるのがテーマですが、僕はそもそも英語教育をしたいわけではないので、語学教育は一切行いません。子どもたちと世界中の人とのコミュニケーションを実現させ、話す楽しさを伝えるためには、通訳を入れること、つまり、子どもたちと外国人、お互いの言いたいことが全部きちんと相手に伝わるようにすることが重要だと考えています。
また、「子どもたちが興味を持つ」ということを重要視しているので、毎月プログラムを通して得た外国の友達との出会いを、「ミーツファイル」というファイルに記録してもらっています。”ポケモンカード”のような感覚で集めることができ、子どもたちはウクライナや東トルキスタンなど、レアな国ほど興味を持っています。
ミーツ・ザ・ワールドでは、以上のように子どもたちの「話したい」という意欲を叶えたり、興味を持てるようになったりするための工夫を施し、「子どもたちの主体的なコミュニケーション行動を増やす」ことを目指しています。
Q3. 大熊町ではどのような事業をされていますか?
大熊町に唯一ある学校「学び舎ゆめの森」でこの教育プログラムを提供しています。会社はもともと渋谷にありましたが、大熊町のほうが確実に面白いと思ったので会社ごと引っ越してきました。
面白いと感じた一番の理由は、ここが30年後の日本を体現している状況だと思ったからです。逆にいえば、ここで通用すれば30年後の世界でも通用するということになる。そこで大熊町での事業は私たちのフラッグシップにしたいと思っており、基本のプログラムをもっと発展させた内容にしています。
ざっくり言うと、「夢が世界に通用したという成功体験を得る」プログラムです。地域、世界で活躍できるプレイヤーになるのであれば、大学を卒業してからではなく、子どものころから夢を持ったって、大学を卒業する前に企業したって良い、というのが僕の考えです。
現代では「子どもには何か世界に飛び立っていけるほど夢を認められた経験がない」ことが課題だと感じています。ゆめの森が会津で運営されていた頃から関わらせていただいていたのですが、子どもたちの本音を聞いていくと、「わざわざ言うほどの夢はない」「外国、世界などはテレビやインターネット上の話」と言っている子もいました。
僕は、この場所に自分の話が世界に通用する成功体験、例えば「言ってみたら面白がってくれた」みたいな体験を“無理やり”入れてしまおうと考えました。どのような体験かというと、10年間で世界中の100人に出会う体験です。現在、幼稚園の年長から9年生がプログラムに参加してくれていますが、例えば5歳の年長の子どもは15歳になったときにすでに100人の外国人と話している子どもになります。
外国人とお互いの住んでいる町について話すだけでも相手の町がとても特殊に見えるように、自分の町も誰かから見たら面白いんだ、可能性があるんだと感じられるようになってくれたら嬉しい。このようなことを課題先進地である福島から始めて、そこから全国の幼稚園から高校まで、そしてウクライナなど世界に広げていきたいです。
Q4. 普段の生活について教えてください。
私のプライベートの活動としての三大巨頭は、自炊・家具DIY・ラジオです。
ラジオは、「福島県大熊町のオールナイトローカル」というタイトルで、”大熊に移転したスタートアップCEOが、ゼロから立ち直る町でローカルビジネスを学んでいく”ということがコンセプトの番組です。
全国の先輩起業家や地方で活躍している人、または浜通り地域に関わりのある方に出演していただいていますが、プライベートなので、楽しんで続けていくためにあえてきっちりしすぎないようにしています。
Spotifyなどの配信サービスで聞くことができるので、ぜひ聞いてみていただけたら嬉しいです。
Q5. おすすめしたい〇〇を教えてください。
ラジオの「オールナイトニッポン」ですね。
先ほどの「オールナイトローカル」にも通じますが、パーソナリティがたくさんいるので、曜日ごとに違う方の配信を聞くことができます。自分の好きなラジオが選べるのが大きな魅力だと思っていて、私はオードリーさん、あのちゃんさん、佐久間宣行さんの番組が特に気に入っています。
スマホを見る必要がなく、料理などをしながら聞けるのでおすすめです。
Q6. 今チャレンジしたいことを教えてください。
5年後にはウクライナで事業を始めたいです。
ウクライナは現在、戦争で自分の町や自分自身にマイナスイメージを持っていたり、自信がない子どもたちが多いのではないかと考えており、5年以内にミーツ・ザ・ワールドを自分が手を放しても大丈夫なように仕組み作りをし、それからはウクライナに行き、必要な教育サービスを調査し、サービスを開発できたらと思っています。
Q7. 関心のある事、分野をおしえてください。
DIYです。
私は最終的に全てを自分の手で作れるようになりたいと思っていて、例えばビジネスを作るという意味では起業も、そして自炊もそうですし、野菜も一通り育てられるようになりたくて、小松菜や玉ねぎなどの栽培を行っています。DIYもその1つです。
Q8. あなたにとっての福島県、大熊町とは?
「世界進出のスタート地点」です。
ウクライナを始め、世界に進出するには実績が必要なので、大熊町での活動できちんと結果を出していきたい。そのことが自分にとっても大事ですし、町や子どもたちのためにも繋がると思っているので、応援していただけるとありがたいです。
特に、現在は子どもたちに自分のことや自分の町、夢を世界に通用させるという体験を始めていますが、このサービスには特に親御さんや周りの大人の協力が不可欠です。
過去に研究していた経験上、世の中では大人が子どものメンタルを削ってしまうケースをよく見かけます。やはりそれはもったいないと思うので、家庭でも、町の中でも、子どもたちの夢をポジティブな言葉で励まして、ともに応援していただけたら嬉しいです。
▶株式会社in the Rye
▶福島県大熊町のオールナイトローカル
◆編集担当より
いかがでしたか。
沖野さんは、現在(2024年9月)では、大熊町の生き物を題材にしたカードゲーム「#くまみっけ」を開発中。
生き物のカードについて、季節、種類のどちらかが同じ仲間3枚をそろえて「見っけ」のかけ声とともに場に出し、決まった組数をそろえた人が1位になります。
カードでは町内で見つけた生き物の特徴を紹介しており、1万種の生き物のカード化を目指しているとのことです。ぜひ遊んでみてください!