入居企業インタビュー#24 株式会社経営芸術総合研究所 田島 悠史さん
株式会社経営芸術総合研究所
田島 悠史さん
大学講師を勤めながら、アート・デザイン・イベント・教育をキーワードに全国で活動。イベント運営からコンサルティング、セミナー等、様々な場で活躍。
Q1. 主な事業内容について教えてください。
アート・デザイン・イベント・教育をキーワードに活動しています。事業内容は芸術系イベントのマネジメントや中小企業診断士資格を活かしたコンサルティング、セミナー等、多岐にわたります。また、大学講師としても働いています。
会社の所在地は東京ですが、全国各地で活動しています。例えば、茨城県ひたちなか市では2009年に『ひたちなか市芸術祭』を立ち上げました。それから毎年開催し、運営に携わっています。
Q2. 大熊町ではどのような活動をしていますか?
大熊町では、2024年2月に経済産業省の補助を受けて、KUMA・PREにて『忘却と恍惚の方法論』というイベントを開催しました。
このイベントでは、「万人に受け入れられるものではないかもしれないが、自分たちが信じている価値を発信しよう」というスタンスを大切にしました。
通常、大熊町でフィールドワークを行い作品を制作しようとすると、そのテーマが自然と原発や震災に偏りがちです。もちろん、これらのテーマが重要であることは理解していますが、それが大熊町の全てではありません。
そこでこのイベントでは、「まあちゃん」の可愛さや、美しい自然など、大熊町が持つほかの魅力に目を向けることを意識しました。こうした取り組みにより、訪れたアーティストが新たな視点で大熊町の良さを発見するきっかけを提供できると考えています。
大熊町の新たな一面を引き出すだけでなく、いわば大熊町におけるアートの可能性を引き出すための「アートを産むためのアートイベント」と考えていました。
Q3. OICに入居したきっかけについて教えてください。
『忘却と恍惚の方法論』が始まりです。
実は私には浜通りとのご縁がいくつもあります。まず、大学の教え子が大熊町の出身で、その話をたまたま北海道のバーでしていたところ、そこに大熊町に縁のある方が居合わせ、一緒に活動を始めることが決まりました。この偶然が重なり、大熊町で『忘却と恍惚の方法論』というイベントを開催することになりました。
イベント自体は無事に終了しましたが、これをきっかけに、引き続き大熊町や浜通り地域でアートを中心とした活動を続けていく予定です。そのための拠点としてOICに入居しました。こうしてOICに入居することになった経緯を振り返ると、本当に奇跡の連続だったと思います。
OICでの日々は、私にとって非常に刺激的です。
OICの特に素晴らしいところは、若い世代とたくさん話ができることです。他の地域でも活動していますが、ここまで20代の若い方々が密集し、生き生きと仕事をしている場所はなかなかありません。
さらに、人々の雰囲気がとても良いのも印象的です。東京のような生き急ぐ空気感がなく、悩みごとにも様々な視点からアドバイスをしてくれる方が多いと感じます。
この環境が私にとって大きな刺激となり、日々新しい発見を得ています。
Q4. 普段の生活について教えてください。
仕事を主軸に生活しています。会社の業務は基本的にはオンラインで進めつつ、必要に応じてクライアント先に出向いています。また、大学教授としての仕事も週に2日ほど行っています。
仕事の内容や時期によって出張の頻度は変わりますが、多い時には月に20日ほど出張することもあります。例えば、昨年は日帰りで大熊町を訪れたり、イベントの際には1週間ほど滞在したこともあります。反対に、スケジュールが落ち着いている時期には、スターバックスで本や論文を読みながら時間を過ごしています。このように、その時々の状況に合わせて柔軟に活動しています。
周囲からは「休みがない」と言われるほど働いていますが、休日には趣味を楽しむ時間も大切にしています。特に、テクノミュージックを聴いたり、日本全国の美味しいものを巡る旅をすることがリフレッシュのひとときです。忙しい中でも、こうした楽しみがあることで日々のモチベーションを保っています。
Q5. 今チャレンジしたいことはありますか?
浜通り地域に、「アートスナック」を作りたいと考えています。
ギャラリーを開きたいという思いはあるのですが、純粋なギャラリーでは人が集まりにくいのではないかと感じています。そこで、スナックとして人が自然に集まれる仕組みを作り、その中でアートに触れてもらえる空間を目指します。スナックならではの親しみやすさを活かしながら、アートを身近に楽しんでもらえる場所にしたいと考えています。
また、浜通り地域での芸術事業を持続可能なものにするため、新しいマネタイズの方法にも挑戦したいと思っています。これまでの芸術事業は、公共機関からの補助金や商店街の協賛金、クラウドファンディングに依存することが多かったのですが、これに加えて独自の収益化モデルを模索しています。
具体的には、NFT(非代替性トークン)の活用に注目しています。NFTを使えば、大熊町のアートを世界中のファンや顧客に届けることが可能です。例えば、NFT作品を発行し、その購入者がファンコミュニティに参加できる仕組みを作ることで、新たな交流の場を生み出せます。
また、イベントのチケットをNFTアート化し、単なる入場券以上の価値を提供することも考えています。このような取り組みによって、地域に根ざしたアート活動を広げつつ、次世代の芸術の形を探求していきたいと考えています。
Q6. おすすめの○○について教えてください。
私がおすすめしたいのは、具体的な本やサービスではなく、アートそのものです。そして、特にアートの「わからなさ」を楽しんでほしいと思います。アートには無限の形があり、それぞれのアーティストが独自の表現方法を持っています。この多様性こそがアートの面白さです。
例えば、花や生物を描くことを得意とするアーティストもいれば、写真を通じて世界を切り取る写真家、さらには活動そのものがアートと見なされる活動家までいます。こうした幅広い表現が存在するのがアートの世界です。
アートは必ずしもわかりやすいものではありません。むしろ、その「よくわからなさ」がアートの醍醐味なのです。初めて見る未知の表現に出会うことで、新しい視点や感覚が生まれます。アートは、私たちの日常に少しの違和感や問いを投げかける存在でもあります。
その「わからない」を恐れるのではなく、楽しむ気持ちを持つことで、アートの本質的な魅力を存分に味わうことができます。このアートの楽しみ方を、もっと多くの人に体験してもらいたいと願っています。
Q7. 興味・関心のある分野はありますか?
現在、私が主に関心を持っているテーマは2つあります。
1つ目はアートの未来についてです。
芸術祭の企画や運営に関わる仕事をしている中で、最近、芸術祭自体が一つのトレンドとしてピークを越えたように感じています。
この先、どのような方向性が主流となるのか、また、どんなテーマに焦点を当てた芸術祭が増えていくのか、といった動向に興味があります。そのため、仕事の一環として、札幌国際芸術祭のようなイベントにも足を運び、最新の傾向を探っています。
アートがどのように変化し、どのように社会と関わっていくのかを考えることは、私にとって非常に刺激的です。
2つ目はテクノロジーの進化についてです。
AIやブロックチェーン技術など、最新テクノロジーがどのように社会に影響を与えるのか、常に注目しています。
特にブロックチェーンは、単なるお金儲けのツールではなく、新しい信頼性の構築方法として社会に広がりつつあります。その可能性には大きな期待を抱いています。こうしたテクノロジーがアートやその他の分野とどのように融合し、新たな価値を生み出すのかを追いかけることが好きです。
この2つのテーマは、私にとってそれぞれ異なる視点から未来を考えるきっかけを与えてくれる重要な領域となっています。
Q8. あなたにとっての福島、大熊町とは?
大熊町は私にとって再出発の場所です。
現在42歳の私にとって、これまでのキャリアの延長線上で仕事が来ることが多くなりました。そのため、基本的にはこれまでやってきたことの範囲内で活動していることがほとんどです。しかし、大熊町では全く新しいことに挑戦する機会を得ることができました。
これまで出会ったことのない「大熊町」という地域そのものと向き合い、これまで経験したことのない出来事に触れる中で、大きな影響を受けました。その結果として、自分の中で新しい視点が生まれ、これまでとは異なるアート作品を作ることができたと感じています。
こうした経験を通じて、大熊町は、これまでの自分を振り返りつつ、心から望む形の仕事や表現を追求するためのリスタートを切れる特別な場所だと思うようになりました。新たな挑戦ができるこの場所に感謝しています。
◆編集担当より
いかがでしたか。
筆者も、田島さんが大熊町で主催したイベント「忘却と恍惚の方法論」に参加しましたが、普段何気なく通る道を新たな視点から見ることができ、新鮮さ、楽しさを感じました。
アートスナックも非常に楽しみです!