【開催レポート】アカデミアの研究者で薬を作ろう!
【開催レポート】アカデミアの研究者で薬を作ろう!
大学発の創薬スタートアップは、優れた研究成果があるだけでは成立しません。
医薬品を実際に患者や利用者へ届けるためには、研究開発だけでなく、知的財産、薬事規制、臨床開発、製造、資金調達など、さまざまなハードルを越える必要があります。さらに、対象となる患者数や市場規模が限られる領域では、従来の製薬ビジネスとは異なる事業モデルや連携のあり方も求められます。
2026年7月11日、OICCCでは「アカデミアの研究者で薬を作ろう!」をと銘打ったイベントをオンラインにて開催しました。
今回は、
・次世代のバイオテック人材を支援するNucleate Japanで活動する、聞 叡萌氏
・核酸創薬の研究に取り組み、N-of-One Pharmaceuticals Inc.を共同創業した、秤谷 隼世氏
をお招きしました。
アカデミアの研究者が創薬に関わる方法や、通常の製薬企業では事業化が難しい領域において、どのように研究成果を社会へ届けていくのかについて、OICCCスタッフの熊谷がモデレーターとしてお話を伺いました。
Nucleateの活動と、研究者が創薬に挑戦するための環境づくり
聞 叡萌氏からは、アカデミアの研究者や学生がバイオテック領域で起業に挑戦するためのコミュニティである、Nucleateの活動についてご紹介いただきました。
大学には創薬につながる研究成果が数多く存在する一方で、研究者が起業や事業開発について学び、経営人材や異分野の専門家と出会う機会は、まだ十分とはいえません。
研究者だけで事業を完成させようとするのではなく、ビジネス、知的財産、規制、臨床、資金調達など、それぞれの専門性を持った人材が早い段階からチームをつくることの重要性が共有されました。
ヒト用医薬品を動物用医薬品へ展開する
聞氏からは、現在Nucleateにおいて調査を進めている、ヒト用医薬品から動物用医薬品へのドラッグ・リポジショニングについてもお話しいただきました。
既にヒト用医薬品として研究開発されてきた化合物や作用機序を、動物の疾患に応用できれば、ゼロから候補物質を探索する場合と比較して、開発期間や研究リスクを抑えられる可能性があります。
一方で、ヒトと動物では対象となる疾患や薬物動態、投与方法、薬事制度が異なります。また、畜産動物と伴侶動物でも、医薬品に求められる価格や提供方法は大きく変わります。
そのため、獣医師、動物病院、畜産事業者、自治体、大学などと連携し、現場にどのような未解決課題があるのかを把握しながら開発を進める必要があります。
核酸創薬による個別化医療への挑戦
秤谷 隼世氏からは、N-of-One Pharmaceuticals Inc.の取り組みとして、核酸創薬を活用した個別化医療の実現についてお話しいただきました。
希少疾患の中には、患者数が極めて少なく、同じ疾患名であっても患者ごとに原因となる遺伝子変異が異なるものがあります。そのような疾患では、多数の患者を対象とする従来型の医薬品開発モデルをそのまま適用することが難しくなります。
N-of-One Pharmaceuticalsでは、「一人」あるいは「ごく少数」の患者に治療を届けるための持続可能な創薬モデルの構築を目指しています。
秤谷氏からは、核酸医薬の技術的な可能性だけでなく、患者の特定、研究機関との連携、製造、品質管理、薬事、治療後のフォロー、さらには国民皆保険との連携の模索までを含めた仕組みを設計しなければ、個別化医療は実現しないというお話がありました。
研究室の中で薬の候補をつくることと、それを実際に一人の患者へ届けることの間には、非常に大きなギャップがあります。そのギャップを埋めること自体が、N-of-One Pharmaceuticalsの重要な事業テーマとなっています。
市場規模の小さな創薬領域で、地域とどう連携するか
パネルディスカッションでは、動物用医薬品と希少疾患治療薬に共通する事業上の課題について議論しました。
どちらも社会的な必要性は高い一方で、一般的な医薬品と比較すると対象市場が小さく、大手製薬企業にとっては投資判断が難しい領域です。
こうした領域では、短期間で大きな市場を獲得することだけを前提とせず、大学、医療機関、動物病院、地域企業、自治体、患者・飼い主のコミュニティなどと連携し、研究開発と事業を継続できる仕組みをつくる必要があります。
例えば、地域の医療機関や動物病院を実証フィールドとすること、自治体の課題解決事業と接続すること、地域企業の製造技術を活用すること、患者会や獣医師のネットワークを通じてニーズを把握することなど、地域との連携にはさまざまな可能性があります。
また、公的な研究開発資金や起業支援制度を活用しながら初期の研究開発を進め、一定の実証データや連携体制を構築した段階で、製薬企業や投資家との協業につなげるという段階的な事業開発についても意見が交わされました。
研究成果を「薬」として届けるために
イベントを通じて共通していたのは、創薬は研究者だけで完結する活動ではないという点です。
研究では、科学的な新規性や再現性、作用機序の解明が重視されます。一方で、医薬品として社会へ届けるためには、誰に届けるのか、どのように製造するのか、どの制度を通じて承認を得るのか、誰が費用を負担するのかまで考える必要があります。
特に、動物用医薬品や希少疾患治療薬のように市場規模が限られる領域では、従来の創薬モデルを前提とせず、研究者、起業家、地域、行政、医療関係者が一緒に新しい仕組みをつくることが重要です。
おわりに
OICCCでは、創薬・バイオテクノロジー領域の研究シーズやスタートアップも積極的に受け入れています。
創薬研究を事業につなげたい研究者の方、大学の研究成果を活用して起業したい方、動物用医薬品や希少疾患、個別化医療などの領域で社会実装に挑戦したい方は、ぜひOICCCへご相談ください。
今後も、研究者、学生、起業家、医療関係者、地域企業、自治体などがつながり、研究成果を社会へ届けるための機会をつくっていきます。
ご登壇いただいた聞 叡萌氏、秤谷 隼世氏、ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。